水素エネルギー
キーワード:「再生可能エネルギー」「蓄エネルギー」「エネルギーシフト」
再生可能エネルギーの普及が進んでいます。しかし,その発電量は季節や天候に左右されるため,電力の安定供給の面で扱いが難しいのです。この課題対策として蓄電池をはじめとする蓄エネルギー媒体が多数検討されています。その中で,クリーンなエネルギーとして水素が注目されています。
ここからは水素の特徴を【つくる】【ためる】【はこぶ】【つかう】の4点に着目して紹介していきます。
【つくる】
水素は誰もが理科の実験で経験したことがあるように水に電気を通せば作ることができます。つまり,太陽光発電などの再生可能エネルギーから生み出された電気から作れば,燃料生産の際に二酸化炭素排出がないことを意味します。
【ためる】
水素は,「高圧で圧縮して体積を小さくする」「低温で液化して液体にする」「金属などに吸着させる」「ほかの物質に変換する」など貯蔵方法が複数存在します。
【はこぶ】
タンクローリーやトレーラー,タンカーなど様々存在しており,用途に合わせた輸送手段を選択することができます。送電線の容量の問題で電力として送れない場合に水素に変えてから運ぶことで追加コストが抑えられる効果が期待されています。
【つかう】
一般的に知られている方法が燃料電池を用いた発電です。水電解装置と水素タンクと組み合わせることによって見かけ上,蓄電池と同様の働きをすることができます。また,水素を燃料として火力発電を行うことも研究されています。
以上のように水素は地球にやさしいクリーンなエネルギーとして期待されています。しかしながら,コストや効率,安全性などの観点から課題が山積みです。本研究室では,これらの課題を解消するための研究も行っています。
セクターカップリング
キーワード:「マイクログリッド」,「エネルギーマネジメントシステム」,「Maas」,「配送計画問題」
エネルギー部門では再生可能エネルギーを主体としたマイクログリッドに期待が高まっています。しかしマイクログリッドは比較的狭い地域を対象としており,再生可能エネルギーの発電出力と電力需要とをバランスさせることが課題となっています。ミスマッチを解消する方策として,蓄電池の活用や複数マイクログリッド間での電力融通が考えられるが,費用が高い上に運用制度などの制約があります。
交通部門ではMaaS(Mobility as a Service)が実運用の段階に移行しており,電気自動車によるシェアモビリティを主体とする交通形態へのパラダイムシフトが実現される可能性があります。
そこで,シェアリングされた電気自動車は人・物に加えて,電力の貯蔵や空間的な移動に活用できると考えており,MaaSの配送計画問題とマイクログリッド群のエネルギーマネジメントとを協調して計画することで,電気自動車を移動型蓄電池として,電力の時間的・空間的シフトに活用することを検討しています。
需要家間電力取引(P2P)
キーワード:「Peer to Peer」,「FIT」,「太陽光発電」,「余剰電力」,「蓄電池」,「電力自由化」,「市場」
固定価格買取制度(FIT:PVで発電した電力を高値で買い取ることを一定期間保証する制度)の施行以降,一般家庭でも太陽光発電(PV)が急速に導入されてきました。しかし家庭用のPVについては2019年以降,FIT買取期間が満了となる家庭が多数出てきます。FIT期間が終了した後は,それまでと比較して買取価格が非常に安くなることが想定されるため,系統へ売電するのではなく,PVの発電電力を蓄電池に充電し,PVの発電がない時間帯に自家消費することが考えられます。しかしながら,蓄電池が高価なものであることには変わりはなく,今後も蓄電池を設置せず,余剰電力を系統へ売電する需要家も多数存在すると想定できます。
そこで近年,ブロックチェーンやスマートコントラクト技術を利用して,従来の電力会社を介しての電力取引から,需要家間(peer to peer,以下P2P)で電力を直接取引する形態が考えられています。当研究室ではP2P取引に参加する主体(需要家)にとって経済的なメリットがある枠組みが必須であろうと考え,P2P取引がもたらす経済メリットの評価,取引制度やメカニズムの検討を行っています。また,2020年4月から送配電事業が法的に分離され,電力自由化が加速すると考えられます。このような背景からも取引価格の設定は非常に重要な問題であり,市場取引及び相対取引での価格設定のメカニズムの検討も研究課題としています。
発電機起動停止計画(UC)
キーワード:「発電機起動停止計画(UC)」、「再生可能エネルギー」、「蓄電池」
電力システムは火力や水力,原子力,再生可能エネルギーといった多種多様な電源が存在し、それらの発電機は燃料費や最小連続起動時間など様々な制約が存在します。その電源構成の中から,常にその電源の特性に応じた経済的な運用する必要があります。
特に火力発電はもっとも重要な発電方法で,瞬時に応答可能だがコストの高い石油火力発電や,コストが安いが瞬時に起動することができない石炭発電機など、ミドル電源から調整用電源まで幅広く用いられています。その中で最も全体のコスト(燃料費や起動コスト、維持費の総和)が安くなるような発電機の起動停止状態を決め、これら一連の流れを発電機起動停止計画(Unit Commitment:UC)と定義されます。火力発電の燃料に用いられる化石燃料は高価であり,日本の電源構成の中で火力発電の比率が最も高いことから,火力発電のコストを少しでも安くするように起動停止状態を決めることは,日本経済の面から見ても重要な問題です。
デマンドレスポンス(DR)
キーワード:「需給調整力」、「需要側機器」、「アグリゲータ」
デマンドレスポンス(DR)とは, 電気の需要と供給のバランスをとるために、需要家側の機器を系統運用に活用する手法です。例えば, 猛暑で需要がひっ迫する恐れがあるとき, エアコンの消費を抑えることで, 需要家側が電力消費を削減するなどが挙げられます。DRに利用される主な需要家の機器としては、可制御性を持つヒートポンプ給湯器, 空調設備, 電気温水器, 電気自動車の充電器などが想定されています.
これまでは発電機によって需要と供給を一致させてきましたが, DRの導入によって系統の運用コストの削減が期待できます。しかし, DRによって需要家側の利便性が損なわれる可能性があるため, その対策としてDRに参加した需要家に運用側から報奨金が支払うことが考えられています. また, 需要家と系統運用者との間に立って電力や報奨金を取りまとめる, アグリゲータという新たな事業者も想定されています.
当研究室では, 空調機器によるDRを導入した際の経済性や, 需要側と系統側に与える影響・効果を研究しております。
マイクログリッド・オフグリッド
キーワード:「マイクログリッド(MG)」、「オフグリッド(OG)」、「容量設計」、「運用計画」、「リアルタイム制御」
近年の再生可能エネルギー電源(RE電源)の導入拡大により,地理的に近い需要家群に対してRE電源などの分散型電源を主たる電源として活用するマイクログリッドという考え方が注目を集めています。これは,需要家の近くに電源を設置することで送電損失を減少できる,停電時などでも電力供給が可能であるなどのメリットがあるためです。さらに,離島や過疎地域などを対象として従来の大規模な系統と連系を行わないオフグリッドも注目されています。離島や過疎地域は都市部などから物理的に離れており系統連系を行うために長距離送電線などが必要となります。そこで,従来の系統と連系せず分散型電源を用いて地域内で電力需給を賄うオフグリッドを構築することで,コストやエネルギー自給率の改善が期待されています。
当研究室ではこれらのシステムに対して,導入する電源容量の最適設計方法や不確実性を考慮した運用計画手法の開発,更にはリアルタイム運用に関する検討など行っています。また,電力を直流で供給する直流マイクログリッドや地震などの災害時に必要な電源容量の設計など,幅広い研究を行っています。
コージェネレーションシステム(CGS)
キーワード:「コージェネレーション」、「熱電供給」、「調整力」、「アグリゲータ」、「蓄電池」
コジェネレーションシステム(CGS)とは、熱源より電力と熱を生産し供給するシステムの総称であり、熱電併給システムともいいます。発電の際に出る排熱を熱エネルギーとして利用することで総合効率が良いという特徴から注目されている技術です。
大型の発電所に対してCGSはエネルギーの消費者の近くに設置できるため,送電ロスが少ないというメリットもあります。一方で,CGSを導入した建物だけでは電気と熱の全てを使いきれない可能性があるといった問題もあります。
当研究室では,需要家が所有するCGSを需給調整に用いる際,アグリゲータが統括して運用することで経済性や調整力提供量を向上させる手法を研究しております。また,再生化可能エネルギーの導入ポテンシャルは高いものの送電線容量が不足している地域において,CGSと蓄電池を協調制御することでCGSを導入可能にする手法も検討しております。
バイオガス発電(BG)
キーワード:「バイオガス発電」、「エネルギーマネジメントシステム(EMS)」
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー(RE)電源は発電出力が天候に依存して変動します。このような自然変動電源の大量導入は電力系統の需給調整に悪影響を与える恐れがあります。
これに対して,バイオガス発電はRE電源でありながら,発電出力が自然条件に左右されない安定電源であるというメリットがあります。北海道地方は有数の酪農地帯というその地域性から,乳牛ふん尿由来のバイオガス発電の導入ポテンシャルがあり,導入拡大が期待されています。
しかし,バイオガス発電の導入ポテンシャルの特に高い農村地域では,電力需要が小さい点,発電設備が変電所から長距離になることが多く送電線敷設工事費の負担が大きくなる点から,RE の新規の連系が難しく,既存の RE においても出力の抑制が起こるという課題があります。
そこで当研究室では,RE抑制がかかる状況下でのバイオガス発電の効率的な運用など,バイオガスエネルギーを有効活用するシステムの開発を検討しています。
慣性力低下問題
キーワード:「慣性力」、「インバータベース電源(IBR)」、「スマートインバータ」、「Nadir」、「RoCoF」
地球温暖化問題や、化石燃料枯渇問題から再生可能エネルギー電源の導入量拡大と需要家機器の省エネ化が全世界で進んでいます。これにより、これまで電力を供給してきた火力発電機などの大型電源(同期発電機)が系統から退出していくことが予想されます。同期発電機は原理的に回転体を有しており、それが持つ慣性力により、電力系統の急激な変動に対する安定性を保っています。再生可能エネルギー電源の多くはインバータを介して系統に連系しており、インバータは回転体を有していないことから、再生可能エネルギー電源の導入量拡大により、系統の安定性の低下がする、いわゆる慣性力不足問題が懸念されています。南オーストラリアでは2016年9月に大停電が発生しており、これは再エネの導入量が多い地域で慣性力が低下していたことに起因し、想定を上回る速度で系統周波数が急速に低下したことが原因との報告もされています。日本においても、再エネの主力電源化と経済活動の基盤として必須である強靭な電力系統の維持を両立するため、系統の慣性力低下対策が望まれています。
電圧分布推定
キーワード:「スマートメータ」、「電圧分布推定」、「配電系統」、「状態推定」
固定価格買取制度が施行以降,配電系統への太陽光発電(Photovoltaic Generation:PV)の導入が加速的に進んでいます。住宅用PVが配電系統に大量連系されると、電圧分布の複雑化し、電圧管理が難しくなります。適切な電圧管理を実現するためには、配電系統内の電圧分布を正確に把握することが重要ですが、面的に広がりをもった配電系統全体に計測器を設置することは経済的に現実ではなく、配電用変電所からの送り出し電流や、数点の計測情報に基づいて電圧分布を推定するにとどまっています。
また、最近の傾向として、電力系統に従来の電力量計の代わりとなるスマートメータや計測機能付き区分開閉器( IT開閉器 )などの、系統情報を測定可能な計測器の電力系統への導入が進んでいます。
そのため、本研究室では、スマートメータ情報とIT開閉器の計測情報から、配電系統の電圧分布を推定に関する研究を行っています。